日々の戯言


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7月2日(木) デジコン委 (第55回) 感想あれこれ [この記事]

今日も、来週月曜(7/6)もデジコン委があるので、第55回の感想を書く時期としては微妙なのですが。一応傍聴時に考えていたこと等を忘れないうちに残しておきます。

前回の報告を聞くまで、てっきりもうソフトウェア方式の導入は既定路線なのだとばかり思い込んでいたのですが、第55回の報告とワーキンググループ参加委員の発言を聞いていると、まだソフトウェア方式の導入を諦めるというオプションも5%程度の確率ではありだったりするのかなと思えたりします。

実際の所、ソフトウェア方式をアナログ停波に役立てようと思ったら、新方式に対応した放送の開始と受信機の販売開始のデッドラインは、2011年7月24日の半年前になる1月24日か、一年前の2010年7月24日か、大体それぐらいの範囲の日付しか取れないのだから、導入の目標時期自体は簡単に設定できそうに思えて、ワーキンググループではその辺も具体的な数字を挙げた上で議論されているだろうと思うのですが、各委員から指摘があるように、何故そのレンジが委員会の席で表に出てこないのかが不思議だったりします。

村井主査の発言にあったような、中間答申ギリギリの時期まで日付を秘密にして表に出さないことで、なし崩し的に中間答申に日付を盛り込もうとしているというようなことは無いだろうと信頼したいところなのですが……こういう状況では技術ワーキンググループに参加していない委員から陰謀論ビリーバーじみた発言が出てくるのも仕方がないことのように思えてきます。

この回では、とうとう椎名委員からも陰謀論ビリーバー風味の発言 (現状のB-CASから利益を得ている方がいるのかという視点で議論を聞いていきたい) が飛び出したので……ニュアンスが伝わるかどうかアレですが「あいたたた」というような気分になりました。

まー有料放送事業者やNHKは、課金インフラの構築コストを無料広告放送事業者に一部肩代わりさせることができているので現状のB-CASから利益を得ていると言えなくもないです。実際、2011年からのアナログBS跡地とBS-17/19/21/23は難視聴対策と放送大学以外は全て有料放送で認可が下りたりして、総務省もB-CAS社の維持に必死だなぁと邪推していたりもするのですけれど。

その辺は地上放送には当面関係が無いので置いておくことにして、実際の所、新方式の議論でなかなか具体的な案が出てこないのは、単にかける労力と得られる結果が釣り合ってないからだと私は考えています。

極論になりますが、例えば権利者団体が一致団結して、現状B-CASシステムの維持に使われている年間100億を肩代わりして、さらに新方式の開発と導入にかかるコストも丸抱えして、それを破る方法が出てきたときには訴訟等で戦っていき、例え国民全員を訴えることになろうともそうした努力を続けるというのであれば、新方式もさくさくと決まっていくことでしょう。それで権利者団体と個々の権利者が仕合せになれるかどうかは別ですが。

ところが実際は「技術は判らない」ということだし、年間100億を肩代わりすることも経済的に不可能だし、ましてや開発・導入・維持コストを負担することなど不可能の上に不可能を重ねるようなものという状況では、そりゃ現状維持をベースに申し訳程度に改善努力を示してみせるポーズぐらいしか、国内大手家電メーカと在京キー局からは出てこないだろうなぁと。

受信機メーカは、現状のB-CASでも鎖国維持には十分だし、コピー制御が (ザルとはいえ) あることで補償金徴収協力を拒む言い訳にもなるしと、現状である程度満足しているので特に鍵漏洩に対策する為のコスト負担を負ってまで新方式を導入する価値があるか微妙な立場です。放送事業者にしてもB-CASシステムの維持コストに加えて、放送設備改修のコストを負担しなければいけないことを思えば、なるべく自分たちの負担は少なくしたいというのが本音でしょう。

そうした所の綱引きが方式検討での6.5色とか7.5色というところの意味なんだろうなと私は邪推しています。

◆◇◆

6月29日(月)にいきなり「ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラム」での検索が増えていたので何があったのかと不思議だったのですが、毎日新聞が妙な記事 [URI] を出していたのですね。今更感の漂う微妙な内容だなぁというのが正直な感想です。

それでもこの記事から、おそらくIT Proの記事 [URI] まで到達して、さらに上記キーワードでの検索を試みる人が30人以上居たというのは……新聞社の影響力って意外とまだまだ大きいのですね。


7月7日(火) デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 (第56回) [この記事]

昨日開催の第57回も傍聴は済ませたので、後で傍聴レポートの形にまとめますが、とりあえず前回、7/2開催の第56回の傍聴レポートです。今回の議題は、技術検討WGと取引市場WG、二つを統合した中間答申の骨子案全体の披露 (第54回・第55回の議論を反映した) と意見交換という形で、議事自体は次の流れで進みました。

いつものように、定型文状態の開会挨拶と資料確認は飛ばして、小笠原課長からの骨子案説明部分から議事を追いかけていきます。説明は、次のような内容のものでした。

以上が小笠原課長からの説明でした。引き続き、村井主査から次のような内容の補足説明が行われました。

以上が村井主査からの補足説明でした。ここから意見交換に移り、村井主査からの指名という形で進んで行きました。最初に指名されたのは河村委員(主婦連)で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が河村委員からの意見でした。次に指名されたのは長田委員(東京都地域婦人団体連盟)で、その発言は以下のような内容のものでした。

以上が長田委員からの意見でした。次に指名されたのは高橋委員(ジャーナリスト)で、その発言は以下のような内容のものでした。

以上が高橋委員からの意見でした。これを受けて、村井主査から以下のような内容の回答が行われました。

以上が村井主査からの回答でした。次に指名されたのは椎名委員(CPRA)で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が椎名委員からの意見でした。次に指名されたのは堀委員(音事協/ホリプロ)で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が堀委員からの意見でした。次に指名されたのは福田委員(民放連/テレビ朝日)で、その発言は次のような内容のものでした。

福田委員からの意見は以上でした。次に指名されたのは関委員 (Dpa/フジテレビ) で、その発言は次のような内容のものでした。

関委員からの意見は以上でした。次に指名されたのは藤沢委員 (NHK) で、その発言は次のような内容のものでした。

藤沢委員からの意見は以上でした。次に氏名されたのは田胡委員(JEITA/日立製作所)で、その発言は次のような内容のものでした。

田胡委員からの意見は以上でした。ここで村井主査からの指名は一巡して、以降は発言を希望された方が自由に意見を出していくという形になりました。

最初に発言を希望したのは浅野委員(IBM)で、その内容は次のようなものでした。

浅野委員からの意見は以上でした。次に発言を希望したのは三尾委員(弁護士)で、その内容は次のようなものでした。

三尾委員からの意見は以上でした。次に発言順が回ったのは岩浪オブザーバ(AMD/インフォシティ)で、その発言は次のような内容のものでした。

岩浪オブザーバからの意見は以上でした。ここで発言を希望する人がいなくなったのと、終了の時間も近づいたということで、村井主査から次のような内容のまとめが行われました。

村井主査からのまとめは以上でした。この後、事務局の小笠原課長から「審議は7月6日の後一回になったが、答申案も委員の皆の了承が得られるように努力していきたい」との案内があって、今回の会合は終了しました。

◇◆◇

多少、感想を書いておきたい部分もあるのですが、昨日の第57回で、受信確認メッセージに関連してかなり面白い話が聞けた為、そちらのまとめを優先したほうがよいだろうと判断しました。今回の感想はその後でまとめて片付けることにします。


7月10日(金) デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 (第57回) [この記事]

7/6に開催された第57回の傍聴レポートです。今回は中間答申案を提示して皆で承認して終了というセレモニーだけだろうと予想をしていたのですが……それなりに白熱した議論が行われていました。議事自体は次の流れで進みました。

いつものように定型文状態の開会挨拶と資料確認は飛ばして、小笠原課長からの答申案説明部分から議事を追いかけていきます。説明は次のような内容のものでした。

小笠原課長からの説明は以上でした。ここから、希望順の形で意見交換となるのですが、その前に、村井主査から次のような内容のコメントがありました。

という村井主査からの簡単なコメントの後で「如何でしょうか」と発言の呼びかけが行われ、それに最初に応えたのが石橋委員(日本CATV連盟)でした。石橋委員の発言は、次のような内容のものでした。

以上が石橋委員からのコメントでした。このコメントに対しては、村井主査から次のような内容の回答がありました。

このやり取りの後で、次に発言を希望したのは高橋委員 (ジャーナリスト) で、ここから受信確認メッセージに関しての、少し多くの方を巻き込んだやり取りが始まりました。まず、高橋委員からの最初の発言は次のような内容のものでした。

この質問に対して、まず、村井主査から次のような内容の回答が行われました。

村井主査からの回答は以上でした。この回答を受けて、高橋委員から次のような内容の追加発言が行われました。

この質問に対しては、やはり村井主査から、次のような回答が行われました。

ということで、小笠原課長から次のような説明が行われました。

小笠原課長からの説明は以上でした。その後、村井主査から「という内容にもとづいた、技術仕様の議論を、技術検討ワーキングでした」とのフォローがありました。さらに高橋委員の質問が続きます。

この質問に対する村井主査の回答は次のようなものでした。

この回答に対する高橋委員からの確認は、次のような内容のものでした。

この質問に対する村井主査からの回答は次のようなものでした。

以上の回答を受けて、高橋委員から最後の確認ということで、次のような内容の発言が行われました。

この確認に対して、村井主査から「専門家に補足をして頂きたいと思うが……」という泣きが入りつつ、以下ような内容の回答が行われました。

以上の回答で、このやり取りは一度終了しました。後でまた再燃・再再燃するのですけれども、とりあえず議事の順に追いかけていきます。

次に発言を希望したのは福田委員(民放連/テレビ朝日)で、その発言は次のような内容のものでした。

福田委員からのコメントは以上でした。次に発言を希望したのは河村委員(主婦連)で、受信確認メッセージについてのやり取りが再発火となりました。発言は次のような内容のものでした。

以上の河村委員の意見と質問に対して、まずは村井主査から、次のような内容の回答が行われました。

以上の村井主査からの回答を引き継いで、村井主査の指名はDpa技術担当の関委員(フジテレビ)だったのですが、藤沢委員(NHK)が回答に立ちました。まず、次の確認から入りました。

この確認に対して、河村委員から「以前検討された、新方式と言われているもの」との指定があり、引き続き藤沢委員の回答が行われていきました。

藤沢委員からの回答は以上でした。この後、村井主査から「よろしいだろうか?」との確認があり、河村委員は「とりあえず」と一度引きました。

次に発言を希望したのは椎名委員(CPRA)で、その発言は次のような内容のものでした。

椎名委員からのコメントは以上でした。次に発言を希望したのは元橋オブザーバ(NHK)で、その発言は次のような内容のものでした。

元橋オブザーバからのコメントは以上でした。次に発言を希望したのは浅野委員(IBM)で、その発言は次のような内容のものでした。

浅野委員からのコメント兼質問は以上でした。この質問部分に対して、村井主査から次のような内容のコメントが行われました。

村井主査からのコメントは以上でした。次に、高橋委員が再度の発言を希望して、次のような内容の質問を行いました。

高橋委員からの発言は以上でした。この質問に対して、これまで同様に村井主査から次のような内容の回答が行われました。

村井主査からの回答は以上でした。次に、発言を希望したのは河村委員で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が河村委員からの発言で、この発言に対して、村井主査から「受信確認メッセージと限定受信は別の機能ではないか」との疑義が出されて、小笠原課長に「もう一度、閣議決定の文章を読み上げてもらえないか」との依頼が出されました。為念、小笠原課長の読み上げたのは次のような内容でした。

これらのやり取りを受けて、河村委員から、判る所までということで次のような補足が行われました。

河村委員からの補足は以上でした。以上の発言を受けて、村井主査から次の釈明が行われました。

村井主査からの発言は以上でした。次に発言を希望したのは三尾委員 (弁護士) で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が三尾委員からの発言でした。次に発言を希望したのは高橋委員で、その発言は以上のような内容のものでした。

以上が高橋委員からの発言でした。ここで追加して発言を希望する人はいなくなりました。村井主査から「技術ワーキングの関係の質問が出たら、それぞれの方に伺いながらということだったが、ほとんど私が答えてしまったので、一応一巡しておきたい」とのことで、技術検討ワーキング出席者の方々への指名がされていきました。

最初に指名されたのは福田委員で、その発言は次のような内容のものでした。

福田委員からの発言は以上でした。次に指名されたのは関委員で、その発言は次のような内容のものでした。

関委員からの発言は以上でした。次に指名されたのは藤沢委員で、その発言は次のような内容のものでした。

藤沢委員の発言は以上でした。次に指名されたのは田胡委員で、その発言は次のような内容のものでした。

以上が田胡委員からの発言でした。ここで指名も一巡し、村井主査からのまとめに移りました。

これに対して、一同(というには声が小さかったような)「異議なし」とのことで、答申案が承認されました。引き続き、村井主査からの発言です。

村井主査からのまとめは以上でした。この後で、事務局の小笠原課長からこれまでの長い審議に協力して頂いた委員の方々への感謝と、今後の情報通信政策部会と、情報通信審議会の総会のスケジュールが案内されて、今回の会合は終了しました。


7月13日(月) デジコン委 (第56/57回) 感想あれこれ [この記事]

第57回と第56回の感想です。既にパブコメの募集も始まっている [URI] ようなので、言いたいことがある人は忘れずに意見を送るようにしましょう。

まずは、57回で議論になった受信確認メッセージに関して、河村委員がソフトウェア方式で技術の本質を的確に捉えたうえで意見を出されたことにびっくりして、正直見なおしました。

それと比べると、村井主査の【アナログ】ロゴ発言に見られるような、技術検討WGメンバーの判ってなさが……こう、不知彼不知己だなぁと。

受信確認メッセージというのは[URI]にある、BSで運用されている衛星視聴契約促進の為の、自動表示メッセージのことです。

今回の答申では、ソフトウェア方式に関してもこれを実現可能とすることを前提に規格を作っていくという方針が示された訳なのですが……この件では正直NHKの政治力の高さに驚いてしまいました。というのは、2007年12月に導入が断念されたソフトウェア方式(ARIB STD-B25 第三部)には、受信確認メッセージに対応することなど欠片も入っていなかったためです。

この方式(STB-25 第三部)では、メーカ単位か、せいぜい機種単位で鍵(Kw)の更新が可能であるようにということしか考慮されてはいませんでした。この規格の検討結果を利用して半年以内に新方式をでっちあげるとすれば、規格の前提条件がひっくり返るような新機能の追加は論外で、より簡易な方向へ運用規定をゆるめるぐらいだろうと私は考えていました。

それにも関わらず受信確認メッセージへの対応を前提に新規格を策定していくという今回の答申となったわけです。よっぽどNHKがうまく立ち回ったのだろうと思います。

村井主査の回答(【アナログ】表示のような……)を見る限りだと、技術検討WGではWG主査を筆頭に、誰もその辺の事情を把握していなかったようなので、そこをついて藤沢委員がうまいこと議論を誘導したのかなというのが私の邪推になります。

ただ……福田委員(民放連/テレビ朝日)の「(新方式での受信確認メッセージ対応は)コスト・時間に影響しない前提で進んでいくものと思う」という発言もあるので、民放側は受信確認メッセージの為の運用コスト増加を許容するつもりは欠片もなさそうです。なので実際の仕様に受信確認メッセージが入るかどうかは微妙なところだと考えています。

ごく普通の技術屋的センスから言うと、管理対象の機械を、せいぜい万の単位で識別すればよいシステム(STD-B25 第三部方式)と、100億の単位で識別し、かつ、タイムリーに応答できるようにしておくシステム(検討中方式)ではライセンス管理機関の運営コストが桁違いになりそうに思えます。また、機器メーカの側でも1台毎に異なるIDを、ライセンス機関からの割り当てを受けたうえで割り振り、かつ、それを読み取って動作を変える必要があります。

製造その他で一定のコスト増が必ず発生することでしょう。ファームウェアやチャネルスキャン結果等で一定の保存領域をもうけなければいけませんから、そこでID程度であれば吸収できるのかもしれませんが、ない方がごく僅かとはいえ確実に安くできるはずです。それなのに何故、追加コストはないと言い切ってしまえるのか本当に疑問です。

◇◆◇

次に補完的制度の検討に関してなのですが、一番気になっているのは「適切な場で」というところです。

放送事業者のホームグラウンドである総務省で著作権法に関して議論をすることは素晴らしき縦割り行政の加護でできないのでしょうし、不正競争防止法に関して議論をするのだとしても、やっぱり総務省からは外れてしまうでしょう。

新法を作るにしても、文科省や文化庁や経産省の職域を侵す立法は難しいのではないかなと思う訳で、「適切な場」というのはどこになるのだろうと気になってしまうのです。

経産省のコンテンツ取引と法制度のあり方に関する検討会[URI]を念頭に置いているのかもという気もするのですが、あそこは原則非公開で「適切な場」というには微妙ですし、公開されている議事要旨を見る限りでは議論は迷走を極めているように思えます。

実際のところ、現在のB-CAS方式では秘密と呼べる部分が無いがために技術的保護方式とも営業上の秘密とも主張できず、不正競争防止法でも著作権法でも無反応機を規制できない訳です。しかし、新方式ではECM/EMMの仕様に関して少なくともNDAなしの公開はしないのでしょうから、それらは営業上の秘密に相当し、流出仕様を活用した無反応機が出るのであれば、マジコンと同程度には不正競争防止法での規制が可能になるはずです。

仕様が流出するかもしれないからということで補完的制度をとの要望が出ている訳ですが、現行法でも新方式であれば対応可能な訳で、補完的制度の要否でいえば否になるんじゃないかなーと思ったりします。

◇◆◇

最後に、第56回の堀委員の発言に関して。「数字とか統計とか、諸外国の情勢とか、主観でこう思いますという事ばかりが並べたてられている」とのことなのですが……。

えーBeeTVの加入者(数字)とか、JAPAN EXPOの例(諸外国の情勢)とか、全く希望が見えなくて残念(主観でこう思います)とか。本当にそんなことばかりが並べ立てられているので……。まあ昔からこういう芸風の方ではあったので今更なのですが。

なんつーか、コンテンツ産業の担い手が将来を考えて提案したりせずに、誰かから提案されるのを待ってるだけというのはどーなんだろうと思います。


7月21日(火) 視聴リスト (2009年 6〜7 月) [この記事]

イー・モバイルの秋葉原周辺での電波状況の劣化っぷりが悲しい今日この頃。4 月頃から速度が遅いと感じることが多かったのだけど、6 月半ばからは圏外表示まで出るようになる始末。端末をばらまくのならそれに見合うインフラ整備をしてほしいのだけだなぁ。

そんなこんなで、7 月からの新番組との入れ替えを含んだ現時点での視聴リスト。

現在視聴中の番組は46本なのだけど、これに加えて録画したままで放置してるエヴァ一挙放送があるのでかなり厳しい。「蒼天航路」「ツバサ・クロニクル」「NEEDLESS」「ティアーズ トゥ ティアラ」「鋼の錬金術師」「かなめも」「シャングリ・ラ」辺りから脱落していきそう。


7月23日(木) 花火 [この記事]

近くで見る花火の楽しさを昨年知ったので、仕事を早めに切り上げて、自宅徒歩圏内でやっていた足立の花火2009 (千住新橋付近荒川河川敷) へ。こんな感じで堪能してきた。

敗因は風下に陣取ってしまった辺り。仕掛け系は煙の為にすぐに視えなくなってしまったのが残念。来年また見に行く場合は風向きを気にするのと、三脚を忘れないようにしよう。

もうちっと広角に取れるカメラを使うか、もう少し遠くから撮ればもちっと引いた絵が撮れたのかなというあたりも反省ポイント。


7月27日(月) デジタル放送のスクランブルの仕組み [1] - 無料広告放送での流れ [この記事]

ソース [URI : ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラム ver. 0.2.4] と規格原文 [URI : ARIB STD-B25 ver. 5.1] を読めば判ることだから書く必要はなかろうと思っていたのですが、未だにネット上でずれた説明をしている人もいるようなので、もちっと詳しい内容を書いておくことにしました。

上の図は、現在無料広告放送の暗号化がどのような仕組みで行われているかを示したものです。この図は ARIB STD-B25 第5.1版の第1部 第3章「スクランブル及び関連情報の技術仕様」にある図3.1を、それぞれの処理が何処で行われているかで色分けして、さらに無料広告放送では使われていない EMM 関連の処理を省略して作成しました。

図の中での処理を順に解説すると、次のリストのような流れになります。

  1. 放送局では映像データや音声データ等を MULTI2 という方式で暗号化する
  2. この映像データ等の暗号化に使う鍵を スクランブル鍵 Ks と呼ぶ
  3. スクランブル鍵 Ks は、ワーク鍵 Kw によって暗号化されて ECM と呼ばれる形で放送データに埋め込まれる
  4. 受信機は、放送データから ECM を分離して B-CAS カードに渡す
  5. すると、B-CAS カードは内部に保存されているワーク鍵 Kw を使って ECM を復号して、スクランブル鍵 Ks を受信機に返してくれる
  6. 受信機は B-CAS カードから受け取ったスクランブル鍵 Ks を使って MULTI2 暗号を復号し、表示可能なデータを手に入れる

この流れでのポイントは次の 2 点です。

ここで、受信機で処理する仕事は、ARIB STD-B25 という規格でほぼ全て公開されています。つまり、零細なメーカやあるいは一般の個人でも、ある程度の労力を費やせばここの処理を作ることができます。(規格書の非常に判りづらい日本語と格闘する必要がありますが)

ただし、B-CAS カードが処理する仕事は、規格では概要以外ほぼ何も公開されていません。ECM を暗号化しているアルゴリズムさえ公開していないという徹底っぷりとなっています。

こうすることで、受信機は誰でも作れるけれども、正しい Kw 等が書き込まれた B-CAS カードがなければ、受信したデータの暗号を解くことができないという仕組みを作っている訳です。

また、実際の放送ではスクランブル鍵 Ks を約 2 秒間隔で変更しているので、B-CAS カードから Ks を取り出し、それを流用して B-CAS なしの受信機を作ろうということもできなくなっています。

◇◆◇

受信機と B-CAS カードの間での情報は、住民基本台帳カードでも採用されている ISO 7816 という国際規格に沿った、一般的な IC カードと同じインタフェースでやりとりされています。

住民基本台帳カードは確定申告でパソコンを利用した電子申告 (e-Tax) に使われているので判るように、PC から市販の機器を介して接続することが可能です。B-CAS カードも同じ規格のインタフェースですので、同じ市販の機器を介して PC から利用することができます。

そして、B-CAS カードに対して ECM 等のデータを与える場合にどういった形式でデータを供給するかということは、受信機側 (家電メーカ) の仕事なので、ARIB STD-B25 で公開されています。

ARIB STD-B25 で公開されている情報と市販の機器を利用して、受信機の一部の機能のみを実現してみたのが、冒頭で紹介した ARIB STD-B25 仕様確認テストプログラムです。

これは、零細なメーカや個人でも受信機の作成は不可能ではないということを示すためと、実際に受信機の作成に挑戦されようとする方々が仕様書の判りにくい日本語を読み取るという手間を省くために作成・公開していたものです。これの公開以降、個人でも Linux 等で利用可能なデジタル放送受信用のソフトウェアを作り、公開される方が増えたので、アナログ停波とデジタル完全移行という国策にある程度貢献することができたのかもしれないと誇りに思っています。

そうした方々が作成されるソフトでは、何故かデジタル放送の特定の機能を満たさないものが多いようですが、それはきっと、その機能を実現するのが非常に困難を極めるからなのでしょう。その機能を必須要件から外すことができれば、受信機のコストを大幅に削減することが可能に違いないのに、総務省の審議会ではなぜそうした決断がされないのだろうと不思議でなりません。B-CAS 以外の選択肢を増やすなどといった対策よりもよほど効果がありそうに思えるのですが、何かそうできない事情があるのでしょうか。


7月28日(火) デジタル放送スクランブルの仕組み [2] - 有料放送での流れ [この記事]

昨日書いたように、スクランブル関連の仕様の内、受信機が処理する部分に関してはほぼすべてが公開されています。暗号化によって技術的にコピー制御ルールを強制できるような仕組みが存在する訳ではないのです。TR-B14/B15 といった運用規定に従っていない受信機に対しては B-CAS カード支給契約を結ばないという契約の縛りを入れることで、運用規定に従わない受信機が販売されない状況を間接的に実現しているにすぎません。

この方法は、最初から B-CAS カードを添付せずに販売する手法に対しては完全に無力です。また、個々の消費者が公開情報を元に、自力で受信機を作成してしまうという場合に対しても効力を持ちません。このようにコピー制御ルールを強制する手段として見た場合、B-CAS 方式はザルそのもので気休め程度の効果しか持たないのですが、B-CAS の当初の目的であった、有料放送での利用形態から眺めてみると、多少異なる評価が出てきます。

上の図は、昨日の図で省略していた EMM 関係の処理を復活させた、スクランブル仕様本来の機能の全体像を示したものです。復活した部分の処理を順に解説すると、次のリストのような流れになります。

  1. 放送局は ワーク鍵 Kw契約情報マスター鍵 Km で暗号化して、EMM と呼ばれる形で放送データに埋め込む
  2. 受信機は放送データから EMM を分離して、その EMM が自分に挿入されている B-CAS カード宛てのものであれば、それを B-CAS カードに渡す
  3. B-CAS カードでは渡された EMM を放送局側と同じマスター鍵 Km で復号し、B-CAS カードの中に保存されているワーク鍵 Kw や 契約情報を書き換える

これ以外の部分に関しては無料広告放送の場合と同様です。この流れでのポイントは次の 3 点です。

ここで出てくるマスター鍵 Km は、B-CAS カードに固有の、1 枚 1 枚の B-CAS カード毎に異なる鍵で、特定の B-CAS カードに向けて送られた EMM は、異なる B-CAS カードでは受け取れないようになっています。

◆◇◆

すこし具体的な例を追ってみます。例えば、有料放送に加入し、視聴契約を結ぶ場合は次のような流れで処理が進みます。

  1. 契約前は B-CAS カードには有効な契約情報が書き込まれていないので、B-CAS カードでは ECM からスクランブル鍵 Ks を取りだすことができない
  2. 契約手続きをして、放送局に B-CAS カード ID を伝えると、放送局側では EMM の送信リストにその B-CAS カードの ID を加えて、そのカードに向けた EMM を送信するようにする
  3. 受信機は自分に挿入されている B-CAS カード向けの EMM を検出したら、その EMM を B-CAS カードに送る
  4. B-CAS カードでは、受け取った EMM を復号して、内部の保存領域に正規の Kw や契約情報を書き込む
  5. 正しい契約情報を持っているので、B-CAS カードは ECM からスクランブル鍵 Ks を取りだせるようになる
  6. 受信機は B-CAS カードから受け取った Ks で、MULTI2 暗号を復号して、映像等を表示・録画する

視聴契約を解除した場合の処理の流れは次のような形になります。

  1. 放送局は解約された B-CAS カード向けに、契約期限再設定の EMM を送るように設定する
  2. 受信機は自分に挿入されている B-CAS カード向けの EMM を検出したら、その EMM を B-CAS カードに送る
  3. B-CAS カードは EMM を Km で復号し、内部に保存されている契約情報の有効期限を解約日に書き換える
  4. 解約日以降、その B-CAS カードでは ECM から Ks が取り出せなくなり、その放送は見れなくなる
◆◇◆

こうした処理の仕組みを追うと、B-CAS 方式とは 契約情報 を守りつつ、契約者に正しく・安く・便利に放送を届ける為に作られた方式だということが判ります。

有料放送の視聴契約管理という観点から見た場合、最も重要なのは「契約していないのに見られてしまう」という状況を排除することで、B-CAS カードはほぼそれだけを目的として作られたような仕組みになっています。

契約していないユーザが勝手に B-CAS カードに契約情報を書き込むことはできなくなっていますし、B-CAS カードに契約情報が無い状態で、ECM から Ks を取りだすことも非常に困難な仕組みになっています。

解約時の契約期限再設定の EMM を受信しないようにして、当初の視聴期限の間はタダで見続けようとする、いわゆる「寝かせ」という手法がありますが、こちらは WOWOW の場合であれば、1 年毎に契約・解約という煩雑な手続きを続けなければならず、またそれが重なるようであれば放送局から要注意者として放送局側から次回の契約を断られるということもありうるので、さほどメリットの大きい手法ではありません。

また、Friio のようなネットワーク共有 CAS 方式にしたところで、最低 1 つの契約は必要ですし、あまり大がかりにサービスを展開するようなことがあれば、それは法的な対処の対象とされてしまうでしょう。

いくつかの抜け道はあるにしろ、商売が成り立たなくなるほどの致命的な穴は今の所公になってはいません。

このように、視聴契約の管理という点から見ると、B-CAS 方式は必要とされている程度の十分な耐性を持っていて、堅固なシステムであると言えます。

コピー制御を強制する手段として見た場合 B-CAS 方式はザルそのものです。しかし、元々は有料放送の視聴契約管理の為に作られたシステムであって、後からコピー制御ルールの強制手段として流用されたという背景を考えると、コピー制御の強制手段として使われることは当初の設計目的に入って居なかったのだから仕方がないのではないかという感想になります。そもそも使える道具ではないのにコピー制御の強制手段として採用することを決めた人々がバカだったのだと私は評価しています。


7月29日(水) デジタル放送スクランブルの仕組み [3] - ECM の詳細 [この記事]

受信機にスクランブル鍵を届ける為に使われている ECM の TS パケットは実際には次のようなデータになっています。

ECM 詳細

こちらは昨晩の某番組で使われていた ECM の一例です。色のついたブロックが B-CAS カードに渡すべき ECM 本体部分で、その中で、特に黄色で塗っている部分がワーク鍵 Kw で暗号化されている部分になります。

ECM 本体の中で、暗号化されていない部分である事業体識別とワーク鍵識別によって B-CAS カードはどのワーク鍵 Kw を使うかを選択する訳なのですが、この事業体識別部分は無料広告放送では (NHK も含めて) 全てで 0x1E が使われています。また WOWOW では 0x02 を使っていますが 110CS の E2 by スカパーでは、全てのチャネルで 0x17 が使われています。

基本的にさほど細かく Kw を分けていることはないようですが、それでも無料広告放送と有料放送では異なる Kw を使い、有料放送事業者の間でも、WOWOW と スカパーでは異なる Kw を使うという形で、一つ Kw が漏れれば直ちに全てが崩壊してしまうといった形にはなっていません。

ECM の暗号化部分の中に日時情報がありますが、B-CAS カードは、この日時情報とカード内の契約情報の有効期限を比較し、有効期限よりも前であれば視聴可能という判定を行って受信機にスクランブル鍵 Ks を返すという動作をします。

上記 ECM を B-CAS カードに渡した場合 (事業体識別 0x1E の無料放送ですから全員が視聴可能なので) B-CAS カードは次の ECM 応答を返してきます。

ECM 応答

リターンコードの 08 00 というのは 契約済み・視聴可 を表わす値です。有料放送などで、有効な契約情報が無い場合は 89 02 などの「非契約」コードと、00 で埋められたスクランブル鍵 Ks しか B-CAS カードから受け取ることはできません。当然ながら、その場合は MULTI2 の復号をしてみてもデータを壊すだけの結果になります。

ECM 本体と ECM 応答にはスクランブル鍵 Ks が ODD/EVEN と 2つ存在しています。これは次のような形で利用することで、B-CAS カードからの応答を待つ間も映像や音声の復号を行えるようにしておくことを目的としています。

ECM スケジュール

ECM で配信される ODD 鍵と EVEN 鍵、これは一つの ECM で片方づつ、交互に更新されていきます。このため、1つの鍵の寿命は ECM 更新 2 回分の時間があります。

配信された鍵が実際に映像や音声の暗号化に使われるようになるのは、ECM によって鍵が受信機に届けられてから約 1.6 秒後です。鍵が切り替えられた後、その鍵は ECM 寿命と同じ期間だけ継続して使われます。

27 日の記述では一つの Ks が使われる期間は 1 秒間と書いてしまいましたが、この記事を書くために実際の運用データを調べなおしてみたところ、ECM の更新頻度は 2 秒に 1 回でしたので、一つの鍵が使われる期間は 2 秒間でした。

この辺りのポイントをまとめると、次の 3 点となります。

なお、ここで書いた数字は全て で、厳密にきっちりこの時間という訳ではありません。

こうした仕組みは、B-CAS からの応答を待つ間も古い鍵を使って MULTI2 の復号を進めることができるようにという意図で用意されているのですが、私が作成した ARIB STD-B25 仕様確認プログラムではこの辺りの制御を考えるのが面倒だったので同期的に逐一 B-CAS 応答を待ちながら処理させています。復号処理の高速化を目指す場合や、リアルタイム再生で遅延を減らしたい場合は、これらの仕組みを活用して非同期的に ECM を処理する方が良いはずです。


7月30日(木) デジタル放送スクランブルの仕組み [4] - 補遺 [この記事]

2004 年以降に出荷されたB-CASカードには、1 週間、有料放送を体験視聴できるという機能が搭載されています。この機能がどのような仕組みで動いているか、B-CAS カードの応答からの推測になってしまうのですが、ここを説明します。

まず、初期出荷 B-CAS での体験視聴とは、どういったものなのか、その特徴を列挙します。

次に B-CAS の応答状況を列挙してみます。

こうした状況を実現する方法ですが、おそらく単純に最初の ECM を処理する際に ECM 内の日時情報の 1 週間後を契約期限として B-CAS カード内部で設定することで、体験視聴機能を実現していると考えています。というよりも、これ以外で実現する手段は思いつきません。

この辺りの背景を知らない人は、Friio で登録なしに有料放送が見られるのを知って「無反応機では有料放送のタダ見ができる」と誤解したり、あるいは昔の Friio には EMM 処理にバグがあって無料体験視聴期間を過ぎると有料放送が見られなくなったのを受けて「無反応期では原理的に有料放送が見られない」などと脊髄反射でデマを飛ばしたりする人がいました。最近では流石にそうした人も減ってきたようですが、そういった情報に踊らされずに済むように、正しい情報を得るための努力を払いましょう。

この体験視聴機能には一つ問題があって、この機能を実現する為に、有料放送ではワーク鍵 Kw を変更することができなくなってしまっています。

まず、出荷状態から有料放送の ECM を処理するために、予め有料放送で利用するワーク鍵 Kw は B-CAS カードに書き込まれた状態で出荷されています。しかしこのカードが実際にユーザの手元に届くまでどれだけの期間かかるか判りません。なので、迂闊に Kw を変更してしまうと過去に出荷された B-CAS カードでは ECM が処理できなくなってしまいます。その結果、本来は利用できたはずの体験視聴ができないユーザが出てきます。

そうした不公平が発生することを避けるために、WOWOW では Kw の変更は基本的に行わず、契約情報の側の有効期限を EMM によって随時更新していくことで視聴契約の管理を行っているようです。実際、ここ数年間 WOWOW の Kw は一度も変更されていないようで、現在契約中の B-CAS カードで、5・6 年前に保存していた TS の MULTI2 暗号が復号できたという例が報告されています。

◇◆◇

B-CAS とスクランブルにまつわるデマとして、「復号した TS には B-CAS の ID が埋め込まれている」とか「B-CAS の応答にはカードの ID が含まれているので、B-CAS 共有サーバを運用している場合は応答からカード ID を特定して無効化できる」というものがあります。

昨日の ECM の記事を見て頂ければ判る通り、ECM に対して B-CAS から返される応答はただの鍵データだけで、B-CAS の ID は含まれていません。全世帯向けに共通で送られる暗号データを、全世帯で共通に使われる鍵で復号しても、復号結果は当然共通ですから「MULTI2 を解除した TS データに B-CAS ID が埋め込まれる」というのは完全なデマカセです。

MULTI2 の復号を行うのは B-CAS カードではなく受信機の仕事なので、受信機が MULTI2 を復号した後で、追加で B-CAS ID を埋め込むなどをしない限りそうしたことは実現できません。TR-B14/B15 にそうした規定があればそれは実現されたのかもしれませんが、私が知る限りではそうした規定は記載されていません。

B-CAS 共有サーバに関するデマの方ですが、B-CAS ID が応答に出てくるのは、初期設定条件コマンドに対してだけです。また、受信機の側で B-CAS ID が必要になるのは EMM を処理する場合だけで、通常の視聴に必要になる ECM に対しては B-CAS ID は不要ですから、B-CAS の応答からカード ID 部分をマスクしてしまっても全く問題なく動作します。

EMM まで処理する場合は B-CAS ID を表に出す必要がありますが、そうした共有サーバを立てる場合は、EMM はローカルで処理して、共有対象にはしないのが固い作りなのではないかと思うので、共有サーバで使っている B-CAS の ID が表に見えるなどというのは、期待しない方が良いのではないかと考えています。そういったサービスをつぶしたい場合は、地道に共有サーバの IP アドレスから辿って、不正競争防止法で差し止め命令を勝ち取るのが現実的な対処なのじゃないかと思います。

◇◆◇

ARIB STD-B25 は第一部〜第三部までの三部構成の規格になっています。このうち、現在放送で実際に使われているのは第一部「受信時の制御方式(限定受信方式)」だけです。

第二部「再生時の制御方式(限定再生方式)」は、NHK で細々と研究が続けられているサーバ型放送向けの規格で、現時点では運用されていません。あっと言う間にサービスを止めてしまった epステーションでひょっとしたら使われていたのかもしれませんが、少なくとも現時点でこの規格を利用している放送は運用されていません。

第三部「受信時の制御方式(コンテンツ保護方式)」というのが、いわゆるソフトウェア方式と呼ばれていたもので、2007年12月に民放連が導入を断念したのもこの方式です。現在デジコン委でパブコメを募集 [URI] している仕様開示方式でもこれをベースに話が進むのだろうと思っていたのですが……この規格ではカバーできない「受信確認メッセージ」を入れる前提で話が進みそうなので……そのうち第四部が追加されて 第6.0版 がリリースされるのかもしれません。

既に 1 年近く前の記事に対して書くのも野暮な話ではあるのですが、現在運用されていない第二部の概要図を掲げて「B-CAS についての技術的まとめ」という解説記事 [URI] を公開するのは、全身全霊で「何も理解せずに思い込みだけで解説記事を書いてますよ」とアピールするのと同等なので、せめてあの図だけでも差し替えた方がよいのではないかと思い続けています。


7月31日(金) デジタル放送スクランブルの仕組み [5] - B-CAS のコスト構造 [この記事]

最近 B-CAS 社に関して報じる記事も増えてきて、日経エレクトロニクスの「迷走する B-CAS 見直し、2011年までの新方式実施は微妙」[URI] や週刊東洋経済の「B―CAS存続の行方、地デジ視聴独占に強まる批判」[URI] のように記事の中で B-CAS カード関連のコスト構造を報じるものでてきました。

また、B-CAS 社自身でも「事業報告書・監査報告書」[URI] として決算短信のような文書の公開を始めているので、B-CAS システムのコスト構造についてかなり詳しい状況が見えてきています。

B-CAS コスト構造

この図は B-CAS システムのコスト構造について、それぞれの情報を総合しつつ 2009 年 3 月期の B-CAS 社の収支情報をまとめてみたものになります。上側が B-CAS 社の収入(売上)部分で、下側が支出(費用) になります。

支出に関しては、B-CAS 社の事業報告書の関連事業者に関する注記部分でかなりの部分が明らかになっているので比較的正確なはずです。製造委託先として東芝・日立・パナソニックシステムソリューションズが上がっており、それらの合計額は約78.9億なので、これが B-CAS カードの製造費用と考えてほぼ間違いないでしょう。これを 2009 年 3 月期の発行枚数である 1900万枚で割ると、一枚当たりのコストは約 415 円程度になります。

また、NTT メディアクロスに 13.5 億で業務委託をしていますが、これは総務省の「「放送分野における個人情報保護 及びIT時代の衛星放送に関する検討会」 資料 [URI] の 2 ページ目にある「鍵管理センター・台帳管理カスタマーセンタ」等の運営業務委託部分に相当すると考えています。

これらの総計で、売上原価の 9 割以上を占めています。こうした売上原価に B-CAS 社の事務所家賃・光熱費・社員給与等である販売管理費を加えたものが B-CAS 社の支出となります。

収入に関しては、確実な情報は NHK と WOWOW からの「限定受信方式使用料」だけなのでかなり不確実な部分を含みます。とりあえず、B-CAS カードの発行手数料として受信機メーカの負担分を、日経エレクトロニクスと週刊東洋経済の記事で共通の一枚当たり約 100 円で計算して、発行枚数をかけた 19.9 億を入れてあります。

残りが放送事業者の負担分のはずなのですが、このあたりの契約が不透明 (限定受信方式使用料の算出基準や放送事業者への割り当て方法等) なのであまりよくわかっていない部分になります。同じ総務省の「RMPエンフォースメントとBCAS方式」[URI] の最終ページによれば、無料放送事業者は Dpa 経由で料金を負担しているようなのですが、そのせいで個々の放送局の負担分がちょっと視えづらくなっています。

常識的に考えればスターチャネルやスカパー E2 も WOWOW と同等かそれ以上の額を負担しているはずなのですが、この二つは B-CAS 社の 10% 以上の株主ではないので、事業報告書に記載されていないのが残念なところです。

とりあえず、上記 2 社が WOWOW と同額を負担していると考えた場合、無料放送事業者がトータルで負担している額は残りの約 43 億前後となります。日経エレクトロニクスの記事にあった 60 億とは少し異なる数字ですが、それなりに近い数字が出てきました。

たとえば、コピー制御を諦めて、B-CAS を使うのをやめて、この 43 億を浮かせて、替わりにネット監視機構を作るとすると、B-CAS 社の場合は社員数17名で販管費が 4.6 億でしたから、同等のコスト構造としても 100 人以上の不正流通監視要員を当てることができそうです。私としてはそちらの方が実際の権利者が仕合せになれる可能性が高いように思えるのですが、何故かそういった議論は総務省の審議会で行われていないようなので、不思議に思っています。

もうひとつ、私が不思議に感じているのが B-CAS カードの製造原価です。2003 年の時点で、VISA が IC カードの発行コストを 1.98 ドルまで下げていたり、アテナが非接触カードとは言え 100 万枚発行で 150 円のカードを納めていたり [URI] する中で、年間 1000 万枚以上発行されている B-CAS カードが何故 400 円以上しているのだろうと疑問だったりします。

EEPROM の容量やカード内のアプリケーションの機能が異なるので単純比較する訳にはいかないのでしょうが、1 枚あたり 200 円程度で作れそうな気がするのと、製造に関して B-CAS 社と契約をしているのが東芝・パナソニックと IC カードの世界ではメジャープレイヤーだという印象がない企業の名前が上がっているのが気になる点です。


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